仙台高等裁判所 昭和32年(う)300号 判決
原判決は、本件公訴事実中被告人が日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律(昭和二七年法律第一一二号―以下特例と略称する)六条所定の関税免除物品である原判示第一、第二の各外国製普通自動車(以下免税外車と略称する)を特例一二条一項、関税法六七条所定の許可を受けないで輸入(譲受)した点は有罪として処断したが、原判示第一、第二の各無許可輸入(譲受)に伴う関税逋脱及び原判示第二の無許可輸入(譲受)の際の物品税逋脱の点は、被告人に逋脱の犯意がないとの理由で無罪とした。ところが、論旨は、右原判示第一、第二の各免税外車の譲受はいわゆる無許可輸入(譲受)にはならないとして無罪を主張するので、以下検討を加えるが、順序としてまず各譲受の経過について説明する。原判決挙示の証拠殊に奥山勝蔵並びに被告人の各検察官に対する供述調書、押収に係る各自動車輸入(譲受)申告関係書類(原審証一、二号)によれば
1、原判示第一の普通自動車は、仙台市所在米駐留軍苦竹キヤンプ内に居住するアメリカ合衆国軍隊の構成員であるフランク・E・スデイールマン所有の免税外車であるが、昭和三〇年一月初旬仙台市大町一丁目一二七番地株式会社北西貿易(通称ノース・ウエスタン・トレーデイング・カンパニイ 以下北西貿易と略称する)において、同会社の取締役社長である被告人と所有者の代理人ジエス・R・チイザム(以下譲渡人と略称する)との間に売買の内約が結ばれた。同月一七日譲渡人は、塩釜税関支署において特例一一条所定の手続を経て譲渡の許可を受け(証一号中譲渡申告書参照)同年二月七日前記苦竹キヤンプ内において、アメリカ合衆国憲兵司令官の認証せるビル・オブ・セールを被告人の代理人奥山勝蔵に交付するとともに代金一三五、〇〇〇円を受領した(証一号中ビル・オブ・セール参照。)同月一〇日奥山は、宮城陸軍事務所で譲渡人から新規登録用謄本を受領し、かつ該外車の引渡を受けた(証一号中新規登録用謄本参照)。
2、原判示第二の普通自動車も同様前記苦竹キヤンプに居住するアメリカ合衆国軍隊の構成員であるマツクス・V・カークブライド所有の免税外車で、昭和三〇年一一月八日北西貿易において取締役社長である被告人と所有者との間に売買の内約が為された。所有者は塩釜税関支署において特例一一条所定の手続を経て譲渡の許可を受けた後同月一九日前記苦竹キヤンプ内においてアメリカ合衆国憲兵司令官の認証せるビル・オブ・セールを被告人の代理人奥山勝蔵に交付して代金四三〇、〇〇〇円を受領した(証二号中ビル・オブ・セール参照)その後奥山は所有者から新規登録用謄本を受領し、かつ、苦竹キヤンプ内において該外車の引渡を受けた(証二号中新規登録用謄本写参照)。
以上の経過によつて、原判示第一、第二の各免税外車の輸入(譲受)が為されたのであるが、輸入(譲受)した北西貿易は、主として米駐留軍人所有の免税外車を輸入(譲受)して日本国内において販売するのを営業の目的とする会社で、右(1)(2)の免税外車も自家用車とするのではなく、利益を得て転売する目的で営業上輸入(譲受)したのである。しかも北西貿易が営業用の免税外車を輸入(譲受)する際には、正規の通関手続並びに陸軍事務所に対する道路運送車両法七条の登録手続は、ことさらに回避し、代金の支払と同時に当該外車の引渡を受けて転売していたもので、通関手続は転売後転買人が転売人北西貿易名義で為すこととし(証一、二号中輸入(譲受)申告書参照)従つて転売価格は関税、物品税を加算しない通称はだか相場または税抜き相場で取引されるのである。前記(1)(2)の各免税外車もこれと同様の価格で転売されたことは、後に当裁判所の職権調査による判断の際に説明するとおりである。かようにして、被告人は、自身が取締役社長をしている北西貿易の営業用として本件の各免税外車を―通関手続をせずに―前記はだか相場で転売する目的で輸入(譲受)したのであるから、各譲渡人に代金を支払つて当該免税外車の引渡を受けたときに輸入(譲受)が完了したと解すべきである(当裁判所の金子太郎、高橋勝好に対する各証人尋問調書参照)。従つて被告人はこのときまでに特例一二条、関税法六七条、同法施行令五九条に基いて輸入(譲受)の申告をして許可を受けなければならないのに、この許可を受けた事実のないことは原判決挙示の証拠によつて明白であるから、右特例一二条、関税法一一一条一項に違反し、無許可で免税外車を輸入(譲受)したものに外ならない。
論旨は、業者が税関の許可を受けないで免税外車を輸入(譲受)することは、全国各地の税関で永年黙認して来たのであるから、ひとり被告人に対してのみ右許可を受けることを期待するのは不当であると主張するが、当審証人石原徳次郎(横浜税関高島埠頭出張所営業課長)、同金子太郎(大蔵省主税局税関部営業課、課長補佐)の各供述によれば、免税外車の輸入(譲受)は、他の外国貨物と同様関税法上事前申告の建前になつているが、税関の実際の取扱としては、車の修理その他の事情を参酌して輸入(譲受)後一五日以内に申告するならば関税法一一一条一項違反とはしないこととし、昭和三〇年八月二五日附蔵税二二〇四号通達を以て各税関に大蔵省から通達した。従つてこの期間を経過すれば当然右法条に違反し無許可輸入(譲受)罪が成立する。同通達の発せられる以前においては取扱基準が一定していなかつたために、税関によつては半年も経過した申告を受理して許可した事例もないではないが、その後は通達を厳守し、違反を黙認した事実はないということである。即ち、この供述によれば、本件各犯行当時においては、業者の無許可輸入(譲受)が税関の取扱上黙認され、一種の慣行となつていたものとは、とうてい認められないのであるから、この供述に反する原審証人門馬四郎、同五十嵐永邦、同川出熊四郎、当審証人五十嵐修次、同奥山勝蔵の各供述、奥山勝蔵及び被告人の各捜査官に対する供述調書の記載は、業者側の希望観測かさもなければ事実を曲歪したもので信用することができない。その他記録を精査し、当審における事実取調の結果に徴しても原判決の各事実認定に誤りがあるとは認められない。従つて原判決が被告人の原判示第一、第二の各所為を関税法一一一条一項の違反の罪としたことは正当で、この点において法令の適用を誤つた違法も存しない。論旨は、理由がない。
第二、検察官の控訴趣意第一点に対する判断。
原判決が本件公訴事実原判示第一、第二の各無許可輸入(譲受)に伴う各関税逋税の点及び原判示第二の無許可輸入(譲受)の際の物品税逋脱の点は、いずれも被告人に逋脱の犯意がないとの理由で無罪としたことは既に説明したとおりである。このうち、まず関税逋脱の点について検討するに、関税法六七条、七二条によれば、関税を納付すべき外国貨物については、関税が納付された後でなければ輸入を許可しないことになつているのであるから、関税法上は輸入前に必らず関税を納付する建前になつており、輸入後これを納付することは法の予想しないところである(当裁判所の高橋勝好に対する証人尋問調書参照)。従つて、いやしくも関税を納付すべき貨物であることを知りながら、無許可で輸入する以上関税逋脱の犯意があるものと認めるのが相当であつて、事後にこれを納付する意思があつたか否は関税逋脱罪の成否に消長を来たすものではない。本件においても、原判示第一、第二の各免税外車は、特例一二条四項によつて外国貨物とみなされるのであるから、各譲渡人から当該免税外車の引渡を受ける前に特例一二条一項、関税法六七条、七二条に従つて所要の関税を納付して輸入(譲受)の許可を受けなければならなかつたのである。にもかかわらず、被告人は以上の通関手続の詳細を知悉しながら、営業の便宜上ことさらに回避して所要の関税を納付しなかつたのであるから(被告人の検察官に対する各供述調書参照)各関税逋脱の意思のあつたことは疑をいれる余地がなく、関税逋脱罪に問擬せられるのが当然である。従つて、原判決が、原判示第一、第二の各無許可輸入(譲受)罪の成立することを肯定しながら、関税については後に転買人をして納付せしめることにしたのであるから、被告人にはこれを逋脱する犯意がないとして、無罪としたのは理論上も矛盾するもので明らかに誤りである。次に物品税法一〇条一項但書によれば、保税地域より引取られる物品については引取の際物品税を納付しなければならない。引取後これを納付することは関税の場合と同様法の予想しないところである。ところが、特例一二条三項、物品税法二三条によれば、特例一二条一項の適用を受ける譲受(本件の各免税外車の譲受に該当する)は、物品税法一〇条の規定の適用については、保税地域よりの引取とみなされるのであるから、本件においても、被告人は譲渡人から原判示第二の免税外車を譲り受ける際所要の物品税を納付しなければならなかつたのである。にもかかわらず被告人は、この手続の詳細を知悉しながら、ことさらに回避し、右所要物品税を納付しなかつたことは、前記関税の場合と同様であるから、これを逋脱する犯意があつたものと認めなければならない。なお原判決は、関税、物品税は転買人をして納付せしめるのが、業者の通常のやり方で、税関もこれを黙認していたのであるから、被告人に逋脱の犯意があつたとは認められないとしたが、これも無許可輸入(譲受)の点と同様で、左様な事実のないことは、さきに引用した当審証人金子太郎、同高橋勝好の各供述によつて既に明白である。
従つて、原判決は以上の諸点において事実を誤認し、ひいては法令の適用を誤つたもので、この過誤は明らかに原判決に影響を及ぼすから破棄を免れない。論旨は理由がある。
第三、職権を以て調査するに原判決は関税法一一八条一項を適用して―主文三項において―原判示第一、第二の各免税外車を没収したが、このうち原判示第二の免税外車を没収したのは誤りである。即ち、まず原判示第一の免税外車は、譲渡人に代金を支払つて北西貿易の所有に帰したことは、既に説明したとおりであるが、その後昭和三〇年四月七日これを大島勝こと虚顕容に代金二〇〇、〇〇〇円で転売した。虚顕容は、それが無許可輸入(譲受)の脱税品であることを承知の上で購入したもので、二〇〇、〇〇〇円というのも前記のいわゆるはだか相場であつたというのであるから(奥山勝蔵の検察官に対する昭和三一年五月三一日附供述調書、虚顕容の司法警察員に対する昭和三一年五月三一日附供述調書参照)犯罪貨物の没収に関する関税法一一八条一項、一号、二号の除外事由のいずれにも該当しない。この免税外車(犯罪貨物)は、昭和三一年五月二八日水越和子から任意に提出され、同日領置済であることは、司法警察員作成の同日附領置調書(甲)によつて明らかである。従つて、原判決がこれを没収したのは正当である。次に、原判示第二の免税外車も同様譲渡人に代金を支払らい北西貿易の所有となつたことは前述のとおりであるが、昭和三一年一月中六〇〇、〇〇〇円で金海茂光に転売し、同人からさらに吉田篤に八〇〇、〇〇〇円で売却したが、金海も吉田も無許可輸入(譲受)の脱税品であることを承知の上で前記の各はだか相場で取引したのである(被告人の検察官に対する昭和三一年六月二九日附第二回供述調書参照)。ところが、その後吉田は真野誠一に同様はだか相場で売却したが、真野は昭和三一年一一月中東京税関で正規の通関手続を了した後佐野某からの借入金の代物弁済として同人に譲渡し、東京陸運事務所に佐野名義で道路運送車輌法七条の登録をし、現に同人の所有になつていることは、当裁判所の真野誠一に対する証人尋問調書の記載によつて明らかである。してみれば、原判示第二の免税外車は、既に通関手続も了し、善意の第三者の所有に帰したのであるから、関税法一一八条一項二号の除外事由に該当し、没収すべきではない。従つて、原判決がこれを没収したのは事実を誤認し、ひいては法令の適用を誤つたもので、この誤りが原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点においても原判決は破棄を免れない。
(裁判長裁判官 門田実 裁判官 斉藤勝雄 裁判官 有路不二男)